カチナドールの歴史


ホピ族がカチナドールを作り始めたのは遥か数百年前に遡ります。白人の目に触れる1800年代後半までは本来の目的である儀式の際に子供達へ配るためのものとして作られていました。子供達はカチナドールを壁にかけ、カチナの姿形や役割を学びました。この頃までのカチナドールは「彫刻」や「芸術」からはほど遠く、板に色を塗った程度の実用のみのものでした。白人と出会い、トレードすることを覚えてからの僅か100年ほどで「売り物」としてのカチナドールの芸術性は飛躍的に進化しました。

1800年代後半から1900年代初頭にかけて白人観光客がネイティヴアメリカン保留地を訪れるようになり、彼等の様々なリクエストに答えるかたちでトラディショナルスタイルが発展し、制作者の数も増えていきました。1920年代に入るとトラディショナルスタイルに変化が見られ、腕や足が体から離れて彫刻されるタイプが登場しました。そして1930年頃になるとより人間らしく体の動きや筋肉を表現する制作者が現れ、さらに壁掛けではなく台座に固定し直立させるという革命的な方法によりフルフィギュアが誕生しました。この2つのタイプのカチナドールはここから独自の進化を歩み現在に至ります。
当店ではカチナドールを4つのタイプに分類しています。伝統的な形状を受け継いだフラットタイプ(クレイドルタイプ)、壁掛けタイプのフルフィギュアとも言えるニュートラディショナルタイプ、カチナダンサーを表現したフルフィギュア、フルフィギュアを簡略化しつつ芸術性を高めたスカルプチャータイプ。大まかな特徴は以下の通りです。画像は各タイプのイーグルカチナです。
traditional

トラディショナル


白人観光客の我儘な要望に応えるうちに古典的なスタイルに変化が生じます。それぞれのカチナの特徴をより鮮明にし、人型になった壁掛けタイプの誕生です。このスタイルは後のフルフィギュアの原型にもなっています。 現在では特にサードメサの若い製作者に好まれており、多くの若手がこのスタイルを継承し発展させています。
flat

フラットドール


原始的な板に顔を描いた程度の簡素なものから発展し、現在の形状で落ち着きました。直径10cm程度のコトンウッドの木の根(ホピは根と言いますが、どう見ても幹です)を2つに割って使うので背面は平らで正面は丸みを帯びています。首と胴体の境目を彫り込み色を塗るだけなので最も簡単なスタイルですが、それでも出来栄えには個人差が出ます。胴体の模様はほぼ共通で胸にカチナの世界を表す黄色と青(緑)、下部に太陽の光を表す赤い3本線が入ります。
full figure

フルフィギュア


精霊のカチナを象った伝統的な壁掛けタイプからカチナダンサーを模した直立型へと劇的な変化を遂げたものがフルフィギュアです。このスタイルは躍動感やリアリティが重視されるようになりカチナドールの中では最も技術力が問われるものになりました。そのためこのスタイルを継承する者も少なくやがて廃れてしまうと思われます。
スカルプチャー

スカルプチャー


1990年代に入り新しいスタイルが突然生まれます。直立型であるものの手足の造形が一切なくローブで隠してしまう画期的なものです。その反面胴体に様々なホピ族のシンボルや物語を描き込みストーリー性を持たせたものになりました。ファーストメサを中心にごく少数の製作者がこのスタイルを好んで作っています。